シオン表情50題 >>1-10
絵・颯城/文・天羽
1.幸せ

ああ、敵わなねぇなぁ。

何気なく、さりげなく、それでもふと気づいたときに、手の届く距離にお前がいること。
それがきっと、俺の幸せ。
2.怒り

少し前から、その瞳が笑っていないことには気づいていた。一見、いつもと変わらなそうな笑顔を浮かべ、談笑しながら、途中からその瞳だけが、温度を失くしたかのように冷えていく。
何かが、彼の逆鱗に触れつつあったのだろう。
「それぐらいにしておけよ」
とうとう限界が来たのだろう。滅多に聞かないほど厳しく冷たい響きをもった声が発せられる。
ぴたりと、談笑が止まる。周りの温度までが下がっていくような中、彼を怒らせた男はまだ何が彼を怒らせているのかを理解していない。そのまま言葉を紡ぎ、
「黙れ」
雷撃のような叱責に口を噤まざるをえなくなった。
それは、決して怒鳴るような大きな声ではなかった。ただ、厳しく二の句を告げさせないだけの迫力の籠る声に、鈍い男は漸くシオンの激しい怒りを知った。
いつも余裕を刻む唇からさえも笑みが消えている。見たことがないほどに冷たい眼差し。感情という感情を凍らせたように表情が消えているシオンの顔は、その端正ささえも仇となって、その場を凍りつかせたのだった。
刃のような視線を真正面から受けた男は、おそらく意識しないままに全身が震えだしている。シオンは、凍りついた周囲を一瞥し、そのまま一音も発することなく踵を返した。
その他者を寄せ付けない背に、誰一人声をかけられる者はいなかったという。
3.切ない

<シオレオイメージ>
やっぱりまだまだ遠いなぁ。
幾百の言葉を連ねても、幾度身体を重ねても、遠いものは遠い。そんなもので心の距離は、とてもはかれない。
わかっちゃいるけれど。
どうしてこんなにも欲しくなってしまったのだろう。ただひとつ、お前の心だけを――
4.元気

テンション高く笑いながら、少々厄介事を持ち込みにシオンがやってくる。
昼間のシオンは、公の場でのシオンは、常に元気で笑みを絶やすことがない。
あの笑顔が、容易く本心を読ませない彼の仮面だ。
5.冷酷

戦場では、何かが降りてくる。
その一瞬から人の仮面をかなぐり捨てて、俺は心をどこかへ置き去る。
そうしてその後は、殺すことに躊躇しない。
躊躇は、自らの死を招く。生きるつもりで戦うことを選んだ以上は、中途半端に死ぬつもりはない。味方の命を護るために、敵を殺す。それだけのことだ。
6.痛み

ヘマをやっちまった。
血だけは止めたものの、本格的な治療が必要そうな傷。
痛みに、思考が侵食されていく。
ぐらぐらとぶれる視界に、仕方なく視野を閉ざす。
参ったな、あいつの顔ばっかり浮かんでくる。大丈夫だって、この程度じゃ死なないよ。ちょっと痛いだけで、問題ないって。
だから、そんな心配そうな顔するなよ。胸が痛いじゃないか。
7.恐怖

おーきたきた。
大漁だねぇ。ほーら、もうちょっとだ、引っかかってくれよー。

ちっ、武者震いかよ。
そんなにコーフンしてんなよ、俺。魔法の邪魔になるだろ。
8.意地

あーったまきたなぁ。
こんにゃろ〜負けるもんか。
こーなったら本気でいくぞー、覚悟しろよ。
「し、シオン様ー、王宮内で魔法使わないで下さいよー」
やだ。
俺にだって意地ってもんがあるんだー!
「いい加減諦めて、書類片付けて下さいよー!」
9.号泣

きっと、涙なんてものはどこかに置いてきてしまった。
いつからこんなにもこの心は、凍てついてしまったのか。人の死にすら涙も流せないほどに。

もしもあのとき、手にしていたならば、俺は変われていたのだろうか。
今となってはもう、すべてが遠い。

雨よ、もっと降れ。俺の分まで、泣くがいい。それが、弔いとなるだろう――
10.強がり

うわーまだまだいるぜ。どーなの、あれって俺が全部片付けないと駄目なの? かー面倒くさっ。
「応援を呼びましょうか?」
だからって、馬鹿な部下にそんなこと云われると、カチンとくるんだよなぁ。
「いらねーよ」
ちょーっと一撃で全滅ってのは自信ないけど、まぁなんとかなるだろう。さーて、行きますかねぇ。
正直結構疲れてはいたのだが、なんだか色々むかついたので押し通すことにした。
「援護くらい頼むぜ?」
「は、はいっ」
なんとなく、損してる気がしなくもないんだけどね。
→お題提供「50 expressions