97.太陽
澄み渡る空に渦巻く興奮。
蒼と白のコントラストに舞い上がり彩る紙吹雪。
石畳を駆け抜ける歓声。
ちりちりと肌を焼く熱気、期待、憧憬。
何もかも現実味がない。
定められた運命を辿る物語の登場人物のように、身体は形式に沿って動く。
幾多の溢れる声を過ぎ。
英雄に開かれた道を登っていく。
歓声の間隙を縫う感嘆と羨望の声。

英雄?
抵抗をやめた女性を斬り、アンヘルと人の埋められない溝を知り、成す術も無かった自分に与えられる称号として、なんと滑稽であることか。
誉めそやされるその姿すらも、アンヘルにあれば普通の事だ。優秀な証ではない。
まして、魔力を持たない自分は普通の基準にすら達していない。
何を認められて自分はここに居るのか。

熱気を煽る風は花の香を孕んでいる。
血の香りを消すために。
顔を上げれば辿り着くべき場所には白の衣装身に纏う皇太子が待っている。
陽の光の下、その白は眩しく目を刺した。
眩んで細めた瞳に流れる幾筋もの蒼。
花の香を、孕んで。

「多少の事なら頭と腕で切り抜けられる奴。俺はそれを基準に囮に選んだ」
リフレインする声。
駒として利用した、と笑う瞳。
容姿でも出自でもなく、ただ自分の持っているものだけを評価した言葉。
私という個を評した告白。
それだけが。
それだけで。

わっ、と一層増した声が渦巻いて昇華していく。
視界が開けた。蒼い空に翻る龍旗。
いつの間にか足は止まっていた。
真新しい騎士の衣装捌いてその場に跪く寸前、皇太子の隣に立つ男を盗み見た。
陽に煌く琥珀が笑んでいる。溢れる花々で血を隠し。

たとえこの称号に意味が無いものだとしても。
貴方にとって意味があるのなら。
それだけでもう。

私は全てを呑み込んで誇らしげに前を向いてみせよう。
「シルフィス=カストリーズ!」


End.

2005.03.01 颯城零