◆戻
![]() 「シオン、お前は秘書だったら何でもいいのか」 「……んなわけあるかよ。いくらなんでも」 「そう願いたいな。5分以内に来るんだぞ?」 「へーへー」 ![]() 「……片づけはしておきますので、会議に行かれて下さい」 ![]() 「痕になっちまったか。悪かったな」 ![]() 「……っ、い、いいから会議に行って来い!」 ![]() それでも登社拒否にならない自己嫌悪 ![]() 冷たい青に優しい温度が灯る瞬間を知っている。 「姫さんは1ヵ月の謹慎だとよ」 意地悪な気分が刺激されて、差し出された書類への返答と変えた。口をついてすぐに後悔したが、もう遅い。 一瞬瞠目したレオニスは、けれど予想に反して、穏やかに瞳を伏せた。それは単に、告げられた事実のみに驚いたかのようにも見える。 「そうですか」 返された言葉にも動揺の色はなく、仕掛けたはずのシオンが逆に眉を顰める。 「そんだけか?」 「他に何か」 それはレオニスの心に土足で踏み込む言葉だ。分かっていたが、今更引き下がれなかった。 ほんの一瞬、ちりりと緊張が走った気がしたが、しかしすぐに小さく笑みさえ返して寄越す。 「シオン殿は何か勘違いしておられるようです」 それで用は済んだとばかり、レオニスは踵を返した。 いっそ肯定してくれれば。 想い人を失ってからの長い長い生。 それがレオニスに与えたのは、自分の心を誤魔化す術か。 「俺にしとけよ」 口から出た言葉に自分が驚いた。訝しげな瞳が振り返る前に、シオンは笑みを不敵に浮かべる。 「……冗談だよ」 本気にすんな。 殊更取り繕うようにからかいを含ませた声音に、レオニスは瞳を眇め、何も聞かなかったかのように一礼し部屋を退出していった。 怒るでもなく、呆れるでもなく。 あるいは、 知っていたのかもしれない。 それが、冗談などではないことを。 「冗談だ」 張り付いた笑みに不似合いな自嘲気味の呟きは、聞き手もなく。 舞い込んだ風が浚っていった。 ![]() ![]() ![]() ![]() |