<side sion>

 その横顔がどうしようもなくかわいくみえて。
 攫うにようにして口づけた。
 ずるい所作なのは、自分が一番よくわかってる。
 それでも。
 拒まないシルフィスが、いとしい。
 少なくとも拒むほどは嫌われてない。
 たとえ錯覚だったとしても、好かれてると思える一瞬が、麻薬のようでやめられない。
 だから今日も、不意打ちのキスを仕掛けた。
 でも咎めるような視線は見たくないから、目も閉じたまま。
 心中で、詰られてるかもしれない。ずるい所作を、あと一歩近づくことを恐れてる自分を。
 その理由を告げても、きっとシルフィスにはわからないだろう。
 それでいいと思う。
 ただ、どうしようもなく確かなことは、シルフィスが大切なのだということだけ。
 だから今はまだ、この距離でいい。



<side sylphis>

 すべてを攫うようにして、シオンに口づけられた。
 魂ごと揺さぶられるようなそんなキス。
 強引なその仕草に文句の一つぐらい云いたくなって、そっと瞳を伺えば、まるでシルフィスの視線を避けるように閉ざされている。

 ずるいひとだ。

 幾度となく思ったことが頭を掠める。
 そもそも、不快感がないからいけない。
 嫌だったら、逃げている。
 それが唐突ではあっても、シルフィスが本気で避けたければ避けられる。
 そんなすべてを、ずるいこのひとは知っている。
 シオンだからこそ避けられないのだと。
 シオンだからこそ、傷つけられないのだと。
 でもシルフィスは、知っている。
 勝手気儘な図太い男の、意外な弱さを、傷を。
 それすらも狙って見せられたものかもしれなかったけれど。
 嫌だと云っても、きっといつものように本心を見せない笑顔と、軽い言葉で流してしまうのだろうけれど。
 後に残らないようにうまくその場をとりなしてくれるのだろうけれど。
 それでも、それがシオンのすべてではないから……。

 避けたらシオンが傷つく気がした。
 ただそれだけで、口づけをゆるしている。

 そして考えている。


 あと一歩あなたに近づく方法を――

ende

 

 

 

「くちづけの距離」

 颯城さんのイラストを見てでてきたイメージ短文。しかしイメージをぶち壊す駄文でゴメンナサイ(^^;;)
 自分的趣味爆裂な感じ……。
 ワンパタだと思いつつ、この手のノリがシオンシルでは好きだ〜(笑)
 もうちょっと長い話の中に組み込んでもよかったのですが、暫く長い話が書けそうもないので、ひとまずこれでアップしときます。

20020913up  天羽りんと

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