もうずっと、深い闇夜に夜明けは来ないだろうと思っていた。
 しかし、それでも、俺が抱え込んでいる闇夜がいつか朝日の光に照らされるようにと願っていた。罪を犯した人間には、救いを望む資格などないだろうか?
 もう沈んでゆくしか道がないのだと思っていた。
 だが、お前に出会った。
 闇夜の中の唯一つの星明りよ、俺の光になってくれないか?
 尽きることない我が闇夜を照らす、側に来て、掴まって、お前の光で抱きしめて。




 リズムに合わせて軽快に舞う。
 貴方の愛に満ちた眼差しゆえに私は変った。
 もう他人の目など気にしなかった、貴方が私のもとに帰ってきてくれるのなら。
 私にあの光り輝く両の羽根をつけてくださったのは貴方。私が光れるのは、貴方の眼中にいる時だけ。
 聞えますか? 貴方の名を呼ぶ私の心臓の鼓動が。耳から離れることなく繰り返される貴方の囁き。貴方が、我が心に烙印されてしまったかの如くに。

……そして、私は、貴方のもの……

 艶藍の火

by 花 


 

赤い火は、お前の燃え上がる熱情。

では、藍い火焔は?


お前は氷冷なのか、それとも熾熱なのか。

今、直に試すさ。そして、もう簡単に開放してやらない。


「シルフィス!」
 朗々たる声が広大な空間に反響する。シルフィスは足を止めて、声の来る源を捜すために振り返った。
「姫」
 柔らかく礼儀正しい微笑みはいつものことだった。
「やっと見つかりました。」
 ディアーナは春の日差しのような甘い笑みを浮かべた。
「捜すのが大変でしたわ。」
「姫、私に何か御用ですか?」
 シルフィスは手を伸ばして、頬を掠めてきた一筋の髪を耳の後に梳き戻した。
「え……あの……その……」
 ディアーナはいつになく少女らしく恥じらさを顔に出した。赤くなった顔は普段よりも格別魅惑的だった。
「姫がここで話すのに不便なことですか?」
 シルフィスもあまり詰問する質ではなく、髪を梳いた手を戻して、困惑した表情をした。
「え……あ……うぅ……あ、あの……」
 ディアーナはもう少し躊躇った後、やっとゆっくり話し出した。
「あの……私は、シオンが好きになってしまいましたわ。」
「……それは……」
 ディアーナの言葉を聞いて、シルフィスは一瞬信じられない思いをした。身体の側にある両手を無意識に拳にして緊く握りしめた。奇妙な感覚が心の中に過ぎていく。シルフィスは、今生まれて初めて絶叫したい気持ちになった。
「あの…シオンが好き、なのですが……芽衣には言えなくて……」
 ディアーナは無意識に両手を絡めた。手も足も置く所がないほど取り乱した様子だった。
「芽衣に知られてしまいましたら、もうクライン王国全部にお知らせしたのと同じことですもの……」
 ディアーナはシルフィスがぼうっとしているのに気が付かなかった。彼女の甘い声の中には、人が拒絶できなくなる強さが含まれていた。
「シルフィス……貴方しか思い付きませんでしたわ……親友の貴方しか……ですから、私は……」
「……ですから?」
 シルフィスは何故自分はまだ笑っていられるのかが分からなかった。本当は呼吸もできないほど心が痛いのに。
 だが、何故心が痛む? そんな必要などないというのに!
「で、ですから……どうしたらよろしいのかわからなくなってしまいまして……」
 ディアーナは困ったようにシルフィスを見つめた。
「シオンの性格は貴方もよくおわかりでしょう……私の好きという気持ちが、唯の憧れではないとわかってしまったら、きっと逃げてしまいますでしょう? ……でも、私はシオンに避けてほしくなんかありませんわ……」
 綺麗な目から涙が溢れ出す。ディアーナは本当に恋に囚われた。
「どなたが姫を好きにならずにいられるのでしょうか?」
 シルフィスは柔らかく笑って見せたが、心の中ではまるで何千何万の蟻に齧られているようだ。一言を話すことさえ困難なのに、微笑みだけはシルフィスの取ることのできないマスクだった。
「心配しないでください、誰にもいいませんから」
「本当に?」
 ディアーナは恥ずかしそうに涙を拭いて、努力して微笑んだ。
「ありがとう。シルフィスは本当にいい人ですわ」
 いい人? 耳から聞いたこの言葉ほど皮肉に聞こえる言葉が他にあるだろうか。自分は単に軟弱で臆病な小心者。親友の願いを拒絶できないお人好し。自分の気持ちをさえ無視する嘘吐き。こんな自分のどこに「いい人」と呼ばれる資格があるのだろう?
「姫様! どちらにいらっしゃるのですか? 姫様! お勉強のお時間でございますよ!」
 そんなに遠くない所から、女官達の呼び声が耳に入った。ディアーナは小さく叫んだ。
「し、しまった、お勉強の時間ですわ! お勉強なんかには行きたくありませんのに!」
ディアーナはすこし文句を言って、シルフィスに向った。
「ごめんなさい。お先に失礼しますわ。」
「ええ……姫、行ってらっしゃい。」
 シルフィスはやはり同じ優しく感じのいい微笑みを浮べた。
「早くいらっしゃったほうがいいですよ。あまり先生方を長く待たせてはいけません」


 ディアーナが行った後、シルフィスは力なく壁にたれてずるずると床に座り込み、頭を膝に埋め込んだ。日差しが体を照らしているはずなのに、シルフィスは何故か一番寒い冬よりも寒く感じた。


 シルフィス……私達、親友でしょう?

 ええ、姫。親友だから私は貴方を裏切ることなどしません。…決して。

「よし、今日はここまで」
 レオニスは命令を下した後、真っ直ぐにシルフィスへ近づいた。厳しくも優しそうに彼に言った。
「シルフィス、後で私の執務室へ来るように」
「はい……」
 訓練中の自分の心ここにあらずの様子がレオニスにばれたのだろうとわかって、細い声でシルフィスは答えた。
 望んではいけないとわかっているのに……自分の思いをコントロールできなかった。もし、誰かを愛することを自分で選ぶことが出来るのだったら、こんなに苦しむ必要などないのに。
 騎士団から出ると、シルフィスはレオニスと話しているシオンを見かけた。
「ああ、誰かが来た!」
シオンは簡単にシルフィスを見つけた。顔に浮べた笑みはどこか意味深だった。
「シオンさま……」
 シオンを見た途端、手も足も出なくなったディアーナの泣き顔がシルフィスの頭の中に浮かんだ。
 こんな時にシオンと会いたくなどなかった。シルフィスはまだ心の準備が出来ていなかった。シオンの前でどう振る舞えばいいのかまだわからなかったのに。シオンを見るだけで自分の決心が泡になって消えてしまいそうだ。
 心の中には痛みが過ぎったが、シルフィスはできるだけ何もない様子を作って、あの、いつもの微笑みを顔に浮かべた。
「シオンさま、自分は部下に話がありますから、もうお帰りください」
 レオニスはシオンを追い出そうとした。
「内緒話か?」
 シオンの微笑みはちょっと危険そうだ。長い睫が伏せられて、怜悧で鋭い眼光を遮った。
「はいはいはい……お邪魔虫はさっさと帰るよ」
 笑いながらシオンは離れようとした。そしてシルフィスとすれ違った時、突然、無防備な彼の手を掴んでその耳元に囁いた。
「シルフィス、もうずっと話してなかったな、今度はいつ来てくれる?」
「シオンさま! 自分の部下を誘惑しないでください!」
 レオニスの目の前でちょっかいを出すとは、人を無視するにも程がある。
 だが、常識に縛られるようなシオンはシオンではないと言えなくもない。
「してないって」
 シオンは無実な顔をした。
「ただ、シルフィスに俺の所に来て貰って、分化できそうな方法を捜せないかと……」
 シオンはシルフィスへ目を移した。
 シルフィスは、驚いて顔を上げてシオンを見た。そして、ちょうどシオンのあの人の魂をさえ奪う目を正視してしまった。
 二人ともこの状況は人の目から見れば、どんなに曖昧に見えるか、そして、どんなに勘ぐられるか、分ってはいなかった。
「それは、シオンさまを煩わせることではございません。」
 レオニスはなぜか部下の純潔を守ろうとしなければならない気がした。まったくシオンという人は手がつけられない。
「そんなことないだろう。俺はシルフィスの分化の結果を見たくてしょうがないんだ」
 レオニスへ答えながら、シオンの目は依然、シルフィスの綺麗な顔から離れなかった。鋭い眼光はまるでシルフィスの魂を見通すように、シルフィスの一切の偽装を見破るように。
「私にはシオンさまの好奇心を満足させる義務はありません!」
 シルフィスはシオンから手を取り戻した。そして、シオンの息に魅入られたような状況から自分を取り戻した。だが、それはシオンがシルフィスの手を離す意志がなかったらできなかっただろうと、シルフィスもシオンも心ではわかっていた。
「まあ、好奇心は好奇心だが、俺は単なる好奇に留まらないかもしれんぞ。」
 シオンは意を介さないよう肩を竦めた。まるで天が落ちても死なないだろうというような自信な笑みを浮かべて。
「じゃ、行くよ。」
 シルフィスはシオンを見送っていなかった。シオンの話は彼の心の中から離れようとしなかった。
 分化の結果?
 本当は、男になれたらいい、とシルフィスは思った。そうすると、もう苦しまなくていいだろうから。
 現実逃避といわれてもいい。だが、一人であの寂しさと切なさと対面するのは苦痛過ぎる。
 シルフィスにとって、じたばたするより、何もないように振る舞ったほうがましだった。
「隊長の御用はなんでしょうか?」
 シルフィスは強引に自分に元気を出すように、親切そうな微笑みを浮かべた。
 時々、こんな偽装がなにより嫌になってしまう。何故自分は人を傷付けるより、自分が傷付くほうを選ぶのだろう? 何故もっと自分勝手にならないのだろう? 何故こんなにも人のことに気を遣わなければならないのだろう? そんなことをして何になる?
 わからない……わかってはいないが……愛することができなければよかった。そうすれば、あまりにも深く心を痛めることはなくなるだろう。
 レオニスは暫くシルフィスを見つめていた。そしてようやく口を開いた。
「シルフィス! お前は最近ぼうっとしていることが多いな。これからはもっと注意しなさい。自分が都へ来た目的を忘れてはいけない」
「はい……」
 そうだ……もしシルフィスが騎士になるのだとしたら、愛は捨てなきゃならない。
 シルフィスの今の目的は一つだけだ。それは、騎士になって、王都とアンヘル族の村との交流を取り持つことである。ほかのことに気を散らしている場合ではなかった。それが良いのだろう。自分の気持ちを忘れてしまえば、もう苦しまないですむだろうから。
「わかりました。これからは頑張ります」
 シルフィスは大声で返事をした、自分の気持ちを全部払い除けて。
 さようなら。シオンさま……貴方には、姫だけがお似合いです……そうでしょう?
 


 

 
シオンは王宮の書庫でシルフィスを捕まえた。
「よっ、久しぶりだな」
 シオンは笑った。しかし、彼の笑顔の後ろに何が隠れているのかを誰も知らない。
「シルフィス、会いたかったぜ!」
会いたかった……一瞬、シルフィスの心臓の鼓動が激しくなった。犬でも猫でもシオンの「会いたかった」の相手になれる、と知りながら、心臓の動悸は止まらない。
「騎士団で試験がありますので、最近はあまり自由な時間がありません」
 シルフィスは淡々と答えた。シオンを通り過ぎて行った。
シルフィスはわざとシオンを避け、会わないでいた。
彼と一緒にいてはいけない。彼の声を聞いてはいけない。彼の目を直視してはいけない。
自分が、捕らわれてしまうから。
だがシルフィスは、自分がシオンから離れようとした瞬間、すでに彼の腕の中に抱かれていたことは判っていた。
「シオン様!貴方は……」
シルフィスが頭を上げて怒鳴ろうとしたとき、シオンの顔があまりに近すぎることに気付いた。近すぎて、自分の鏡像が見つけられるくらい、シオンの息を呼吸できるくらい、シオンの心臓の鼓動を感じれるくらい。
「シ……」
シルフィスは何かを言うことで、この呪文みたいなものを打ち破りたかった。だが、シオンはすでに今度こそ彼を逃さない、と心に決めたらしい。
ちょうどシオンが頭を下げた時、ディアーナの声が書庫の中まで響いてきた。
「シルフィス? ここにいらっしゃるのですか?」
ディアーナの呼び声がシルフィスを覚醒させた。シオンを突き放して、大きな声で返事をした。
「私はここです」
「どうりでどこにも……」
近づいたディアーナは二人を見て、ちょっと当惑した。
「あなたたちは……」
「姫! いい所に来ました。私はちょうど帰る所です」
シルフィスは微笑んで答えた。シオンが自分を見ているのは判っていたが、努力して、シルフィスはまるで先のことなどなかったように振る舞った。
「シオン様の相手をお願いします」
「あ……私……」
 ディアーナは赤くなって、シオンの目に鋭い光が一瞬閃き、そして口元に意味深な笑みを浮かんだことに気付かなかった。
「ああ、我がかわいい姫さん、ちょうど花壇の整理を手伝ってくれる人が欲しかった所だ。姫さんのご協力を得る光栄はございましょうか? 花だって、喜ぶと思うぜ」
シオンは万人を魅惑する笑みを浮べたが、だが目の底は笑っていないまま、シルフィスを見つめた。
「では、お先に失礼します」
 シルフィスは避難するように書庫から出た。
何も感じなければ……何も動揺しなければ……何も愛さなければ……よかったのに。それならば……
「よ……喜んで!」
ディアーナは赤くなった両頬を軽くさすって、もう止められない笑顔をうまく隠した。
「シ……シオン! あ、貴方に好きな人、いらっしゃいますか?」
廊下から伝わったシルフィスの足音はぴたっと止った。
知りたいのか、知りたくないのか? 答えを知ったほうが幸せなのか、知らなかったほうが幸せか?
「いるよ」
 シオンはあっさり認めて、肩をすくめた。
「ん……でしたら……でしたら、どなたか聞いてもよろしいでしょうか?」
ディアーナの甘い声は人に拒絶できない魅力がある。
「もちろん姫さんだよ」
 シオンの口元が上がって、愉快そうに笑った。
震えた鼓動が一瞬、心臓を圧迫した。廊下の足音はやっと再び歩き出して、聞こえなくなった。
「はい?」
ディアーナはびっくりしたようにシオンを見つめた──シオンが言ったのは本当のことだったのか?
「姫さんの反応は喜んでくれたと見てもいいのか?」
 シオンはだるそうに聞いた。多くの刺を隠したような聞き方だった。
「あ、あの……それは……それは……」
ディアーナは口篭もった。シオンがこんなに誤魔化しにくいとは思ってもみなかったのだ。せめてもう少し早くそうだと判っていたら、芽衣にお願いすることもできたのに!
シオンはディアーナを鋭く眺めて、再び笑った。
「芽衣だろう?」
「え?」
ディアーナの心臓の拍子は一拍子打ち遅れた。見透かされた虚勢に、冷たい汗が流れた。
「こんな遊びはやらないほうがいいぜ。代価は高いからさ」
シオンは愛しそうにディアーナの頭を軽く撫でて、書庫から出た。
ああ〜全部ばれていたのね! でも彼女たちは只、促進剤になりたかっただけ。さもなければ、こんなゆっくりな速度のまま、この二人の仲が進展するのは何時の日になることやら。
「ディアーナ!下手だったね」
芽衣は本棚の後ろから飛んできた。彼女も先のことを書庫のどこかから覗いていた。
「ああん、どうせ私は大根ですわ」
ディアーナはすねたように頬を脹らませた。
こんなにもちょっとの間だけでバレてしまうなんて、王家の尊厳を損ねてしまう。一国の姫であるのだから、せめて仲を持つくらいのことは成功させたかったのに。
「それでは、これからはどうしますの?」
ディアーナは矯正できる方法を聞きたかった。
「もちろん。とことんやってやるよ。安心しなさい。この芽衣さまに任せて!」
芽衣は自信満々に言いきった。いたずらっぽい目にはもう悪巧みの光が光っている。へっへっへ……




シオンとディアーナが一緒の所が見たくなくて、シルフィスは休日になると、本を持って湖の側に座った。
シルフィスは自分一人の時間は好きだったが、たまに深い寂しさを感じる時もあった。
誰もが生まれた時から孤独であるべきだと、決められているわけではなかった。人は群れる動物であり、団体の中でこそ、必要とされる、重視される、そして、愛されることを感じられる。
血筋のせいか、人種のせいか、シルフィスはずっと人から一線ひいた感じがしていた。
それは口下手のせいだったか、それとも恥ずかしがりやのせいだったか?
「あっ」
夏の白い衣装を着ているキールは、先客がいるのを見てとった途端、ポーカーフェイスになった。
「お前はどうしてここに?」
「風に当っています。ここの風景は美しいと思いませんか? 心嬉しくなります」
シルフィスは彼に向った小さく微笑んだ。
キールは眼鏡の位置を高くして、すこしの間にシルフィスを詳しく観察した。白い服を汚されることも構わずに直に地面に座った。
「お前、元気がないな」
シルフィスは吃驚した。
「だめですね。そんなに明らかですか?」
 シルフィスは苦笑した。
判るようにするつもりはなかったのに。全ての感情を心の中に押さえると決めたのに。だが、何故かキールを見ていると、どんなことも言えそうな気がした。
あまりにも寂しかったから、誰かに聞いて欲しかったのかもしれなかった。
「演技も何もなかったぞ」
キールの笑みは腹立たしかった。だが、シルフィスの前の彼は他の誰といる時よりも正直で、無遠慮だった。
「そうだろうか?」
シルフィスは苦しい顔をした。しまった。こんなに簡単に見透かせるのではもう終わりではないか? こんなに苦労して自分の感情を押さえていたというのに、まだ駄目なのだろうか?
「まあ、頭を使わない奴なら判らないだろうよ」
キールの無心な一言は二人の女性を罵ったことになったが。
「キール……」
キールの言葉には遠慮がなさ過ぎるかもしれない。だが何故か心が軽くなった。キールと一緒にいると、安心できる。彼の言動は、あんなにきつかったというのに。
「もう行く」
 キールは立ち上がった。服についた草屑を払った。
「ええ?私がここにいるからですか? キールは元々……」
 シルフィスはキールのことがわからなかった。
「俺は一人でいるのが好きなんだ。ハエがいると気が散るのでな」
 キールの口元が上がった。
「まあ、お前だけならいてもいいが。俺の研究材料だからな」
キールは言うなり湖から離れた。
ええ?……それでは……シルフィスは周りを見回した。もしかして、それは、ここに、自分とキール以外の人もいるということかな?
ということは……彼らが先に話したことも聞かれてしまった、ということになる。シルフィスの緑の瞳は少し暗くなった。
シオン様……その名を思い出しただけで、心が痛くて息ができなかった……自分はいったいどうしたらいいのだろうか? 誰がシルフィスに答えを教えてくれるのだろうか?

微風は依然、湖の側を吹き抜けていく。シルフィスの愛への疑問に応答するように。